ねているときいがいねむい

ねているとき いがい ねむい

人には人の乳酸菌

下の小中高

「下ネタ」という話のジャンルがありますね。私は下ネタがあまり得意ではありません。下ネタそのものが苦手というより、下ネタが繰り広げられているときの、場を支配するような空気感とマウンティング合戦が嫌いです。

これから書くエピソードは下ネタではなく下の落語のようなものです。下の落語とは…と思われるかもしれませんが、下の落語としか言いようがないのです。

 

小の下

小学生の頃、バレーボールのスポーツ少年団(通称スポ少)に入っていた。6年生のときに各チームから0〜2人が選出され、練習会や合宿をする「選抜」というものに選ばれた。チームを代表して来ているということや、いつもは敵チームとして戦う相手と仲良くなれるチャンスということもあり、選抜にはどこかそわそわしたような独特の雰囲気が漂っていた。すぐに周りと打ち解けて練習後にプリクラ交換をはじめる強者もいたが、人見知りの私はあまり自分を出さないようにして練習に参加していた。

ある日の練習後、選抜の中でもイケイケの部類に入る2人がにやにやしながらこちらに近づいてきた。2人は「聞いてみてよ」「そっちが聞いてよ」と何らかの質問権を譲り合っている。そのうちどちらかがもじもじしながら「コンドームって知ってる?」と私に聞いてきた。コンドーム…私は少し考えて、

「あの頭にぶっ刺すやつ?」

と答えた。

2人は「えっ、えっ、えっ…?」「怖い怖い怖い」と顔を見合わせ、耳を真っ赤にして立ち去ってしまった。今のは何だったんだ。ぽかんである。当時はその状況を全く理解できていなかった。

中学に上がって読んだ『ビタミン』という漫画の中で、主人公の机の上に大量のコンドームが置いてあるというイジメが描かれていて、そこではじめてコンドームが何かを知った。しかし今思うとあの漫画、中学生が読むにはだいぶえげつなかったな…。

私が答えた「頭にぶっ刺すやつ」とはコンコルドのことだった。超音速旅客機ではなく、ヘアアクセサリーの方のコンコルド。髪を束ねてお団子にしたところにスッと突き刺すアイテムだ。私はコンドームとコンコルドを混同していたのだった。コンで踏むな。お洒落に無頓着な自分がなぜコンコルドなんてものを知っていたかというと、雑誌についてくる「サン宝石」という通販カタログを毎回隈なくチェックしていたからだ。懐かしいな〜サン宝石

そんなわけで小学生6年生の私は、コンドームを知っているかという問いに「頭にぶっ刺すやつ」と答えて、そんなに仲良くもない同級生を震撼させてしまったのであった。

 

中の下

「頭にぶっ刺すやつ」といえば、中学でも無知ゆえに恥をかいた下のエピソードがある。

私には2つ年上の兄がいる。私が中2で兄が高1の頃、運動はできないが体が大きな兄は、高校でラグビー部に入っていた。毎年全国大会に出る強豪校で、ショーンというオーストラリア出身のコーチが指導についていた。兄は家でよくショーンの真似をして「ファッキンディッケン!」と叫んだり、やれやれ…といった様子で「ファッキンディッケン…」と嘆いたりしていた。私が「ファッキンディッケンって何?」と聞いても、兄は「ショーンの口癖」としか答えてくれなかった。

中学のテスト期間でいつもより早く帰れる日、昇降口を出た校門のところにロナンというアイルランド出身のALTの講師が立っていた。ロナンは20代前半のシャイボーイで底抜けに陽気というわけではなかったが、年齢が近いこともあり生徒たちが気軽に話しかけることができる存在だった。私はロナンを見つけると、普段から疑問に思っていた「ファッキンディッケン」の意味について質問した。

Excuse me Ronan.

My brother is a member of the rugby team in high school.

His Australian coach often says "ファッキンディッケン!!!" when he gets angry.

Do you know "ファッキンディッケン" ?

(要約:兄のラグビー部のコーチは怒るとよく「ファッキンディッケン」って言うらしいんだけど、ファッキンディッケンってどういう意味?)

ロナンは "Fuck'in...D...K...??" D...??? K...???" と困惑しており、ディッケンの意味を理解できないようだった。私はいろんなパターンで「ファッキンディッケン!」と叫んだり「ファッキンディッケン…」と嘆いてみせたりした。ロナンはディッケン、ディケイ、ディック……とつぶやくうちに、

"Oh...dick head......"

と、ディッケンの意味を完全に理解したようだった 。私が "What's the meaning of ファッキンディッケン?" と尋ねると、ロナンは顔を赤く染めながら

「Fuck'in dick head means...アナタの頭、おチンチン、ササッテル…」

と答えた。とんでもないことを質問してしまった…と思ったが、"Oh〜, I see "Fuck'in dick head". Thank you Ronan. Bye〜." というようなおちゃらけかまして校門をあとにした。

 

高の下

「校門」といえば中学を卒業し、女子校に進学した私は、高校でもまたやらかしてしまう。

中間テストだったか期末テストだったか忘れたが、私には「家庭科の勉強に時間を割くのは非効率」みたいな謎のポリシーがあり、試験当日まで家庭科のテスト勉強をほとんどしていなかった。それほど効率を重視していたというよりも、家庭科の勉強を疎かにする自分をちょっとかっこいいと思っていた節がある。

直前に教科書を開き、テスト範囲の必須脂肪酸や界面活性剤の特性について突貫で知識を詰め込んだ。周囲では「ドコサヘキサエン酸…エイコサペンタエン酸…」などと独り言を唱える者、互いに問題を出し合う者がいる中で、腐女子2人組が「アナルエーテル…アナルエーテル」と言っていた(気がした)のが耳に入ってきた。私は「ドコサヘキサエン酸…エイコサペンタエン酸…アナルエーテル…」と、聞こえてきた単語をそのまま頭にインプットした。

あっという間に休み時間は終わり、テスト用紙が配られた。わかるところから解答したが、わからないところはもうどうしようもないと諦めて、全部「アナルエーテル」で埋め尽くした。暴挙である。こんだけ書けば一つくらい当たるだろ…程度に考えていた自分が恐ろしい。

これは本当に信じてもらえないかもしれないが、当時の私はアナルの意味を知らなかったのだ。確か高2か高3だ。システム英単語にはアナルなんて載っていなかった。エーテルは辛うじて知っていた。ファイナルファンタジーをやっていたからな。

そんなこんなで帰宅して夕食後、今日あった出来事として「家庭科のテストでわからないところは全てアナルエーテルで埋めた」と父に話した。すると父は真顔で「アナルってお前、肛門だぞ」と言うのだ。

アナルが肛門…?そんなわけ……。すぐさま電子辞書で "anal" を調べた。

anal

【形容詞】肛門の

嘘だろ。アナルが肛門?本気で言ってんの?にわかに信じられず、電子辞書の音声ボタンを押す。固唾を呑んで見守る中、電子辞書から

「エイナル」

と、女性の綺麗な声がこだました。analの発音、アナルじゃないんかい!という指摘は置いといて、アナルが肛門。本気(マジ)だった。ってことは何だ、アナルエーテルは肛門の回復薬か。あの腐女子2人組、テスト直前にどういう会話してんだよ。意味がわからなくて「エイナル」ボタンを連打した。父と娘の空間に、美声のエイナルが響き渡る。ふつふつと笑いがこみ上げ、ついには腹を抱えて爆笑した。ちなみにanalの名詞形は "anus"、正しい発音は「エイナス」だ。一つ賢くなりました。

後日、家庭科のテストが返ってきた。ペケがついた「アナルエーテル」の答案用紙を見て、これを採点した家庭科の先生に申し訳ない気持ちになった。

 

〜Fin.〜