ねているときいがいねむい

ねているとき いがい ねむい

人には人の乳酸菌

2024年1月のこと

月に何度かドカ雪が降った。一夜にして街はどっぷり雪に包まれる。ここまでくると「雪化粧」という控えめな表現では収まりきらず、デコレーションケーキにクリームを垂らしたような、本当に「どっぷり」と雪に浸かったような景色に変わる。

腰の高さほどに積もった雪をかき分けて、坂を下って通勤する。人ひとり分ほどの道が踏み固めてあって、狭い道をそろそろとイライラ棒のように進んでいく。一歩道を踏み外すとズボッと深く足を取られるか、カエルのようにびちゃっと転び、さすがに「ドゥフ…」とか「っツー」というような、声にならない声が漏れる。雪国で坂の上に住むとこうなります。案外おもしろい。

 

「どっぷり」としか言いようのない曲線

 

雲の三兄弟 があらわれた!


最高気温0度で「今日はあったかいね」と言われると「そうですか…」と思う。出たよ道民マウント。実際職場はあたたかいを超えて暑いほどに暖房が効いているので、これまでとさほど変わらない服装で仕事できている。

冬になり街を訪れる観光客はさらに増えた。冬のこの街は夜でも白く明るく輝いていて幻想的な光に包まれる。やっぱ遊びに来るなら冬だよな〜と思う。全然関係ない話だけれど、ネットミームとして有名な2chのオフ会画像に「雪の降る町」という名前の人がいて、いつも「ここが雪の降る町だ…」と思う。

バス停でバスを待っていたら海外からの観光客に英語で話しかけられた。「山頂行きはこのバス停で合っていますか?」という感じのことを聞かれたので、「45分に次のバスが来るのでそれに乗れば良い」という感じのことを答えた。バスに遅れが出ていたので「This bus is delay.」と伝えたが、"delay"という単語が通じなかったため"be late"で言い換えたらわかってもらえたようだ。あとから調べると"delay"は動詞なので受動態で"has been delayed"とする方が良さそうだった。

観光客女性はスマホに中国語で何か話しかけ、「ロープウェイとリフトの違いは何ですか?」と日本語翻訳された画面を見せてきた。自分も知らなかったのでGoogleで調べると、ロープウェイは団体で乗る箱もので、リフトはいわゆるスキー場にある2〜4人乗りのものを指すらしかった。ちなみにロープウェイとゴンドラの違いは吊るすロープの本数だそうだ(ロープウェイが2本、ゴンドラが1本)。知らないことがまだまだたくさんある。夜景を見るためにはロープウェイに乗る。トップ・オブ・ザ・マウンテンに行くにはさらにリフトに乗る必要がある。リフトは15時までだから営業終了してるけど、many peopleはロープウェイだからOK!という感じのことを伝えた。オンライン英会話に通うよりバス停に立っていた方が勉強になりそうだ。


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冬は夜

 

1泊2日で札幌小旅行。午前のうちに洗濯機を2回まわし、最低限の荷物をリュックに詰めて電車に乗る。雪がしんしんと降っていた。すすきので11:45からの映画を観るつもりが、札幌駅に着いたのが11:30だった。すすきのまでは歩いても行ける距離だけど、ここでは地下鉄を使う。映画館はすすきのに新しくできた駅直結のビルに入っていて、エレベーターとエスカレーターを乗り継いで5階に上がる。チケットを購入し、トイレを済ませ、席に着いたのが11:54。間に合った。映画はまだ予告編を放映中だった。あらゆる関門をくぐり抜け、間に合った。What a perfect day!!!

『PERFECT DAYS』を観た。自分の生活を抱きしめたくなるような素晴らしい映画だった。私の一番好きな映画は『パシフィック・リム』なのだけど、それとはまた全然別のベクトルで、観たあと視界に一枚フィルターが加わるような、心を大きく揺さぶられる作品だった。

役所広司演じる平山の朝は、近所の老婆の竹箒の音で目を覚ますところから始まる。すぐに布団をたたみ、寝る直前まで読んでいた文庫本をパラパラとめくり、下へ降りて歯を磨く。口髭は鋏でカットして、顎髭はシェーバーで剃る。冷水で顔を洗い、霧吹きを持ってまた上へあがる。青紫の光に照らされた植物たちにせっせと水をやる。清掃服のつなぎに袖を通し、玄関に置かれたガラケー・鍵・財布・カメラ・小銭を手に取りアパートを出る。そのとき必ず平山は空を見上げる。そこが良いなと思った。サンドイッチを食べながら木漏れ日を見上げるとき、トイレ掃除の合間にふと雑踏の影が天井に映るのを見つけたとき…さまざまな場面で上を見上げるシーンがあった。

全部良かったから挙げるときりがないのだけれど、特に好きだったのは神社でもみじの芽を見つけて持ち帰るところ。神主に許可を得るために両手でもみじを指し示す無言の所作に、彼の植物への尊敬と奥ゆかしさが出ていた。好きだったところ、いろいろあるなあ。その日あったことを思い出して嬉しくなって、銭湯で鼻までぶくぶく沈んだり、地下の飲み屋で耳たぶを触ってみたり。ホームレス男性やタカシの幼馴染「でらちゃん」に対する眼差しもあたたかい。

ニコとの会話の中で発せられた「今度は今度、今は今」も詩的で良かった。ニコといるときの平山は普段よりも饒舌だ。最初に黄色いTシャツの迷子を見つけて、手を引いて歩いているときもよく喋っていたように思う。おそらく平山は大人に対しては無口だが、子供と喋るときや会社に対して怒りをぶつけるときなどはしっかりと話すことができる。普段は最低限のコミュニケーションしか取らないが、それはある種「無口で寡黙な男」として割り切っているからかもしれない。毎朝のルーティンが決まっているように、平山という男の生活を淡々とこなしている。

エンドロールのクレジットで、飲み屋や銭湯の常連のキャスト表記が「REGULAR」となっていた。いいなあ。私も近所にお気に入りの店を見つけてレギュラーになりたい。

 

これは近所の好きな中華屋

 

『PERFECT DAYS』のあとはずっと行ってみたかった回転寿司屋「トリトン」へバスで向かう。入口で名前を記入すると、店内の待ち席は埋まっているため順番待ちのアプリを入れて外で待つよう指示された。駐車場で車中待機している人が多かったが、車がないので身一つで雪の降る町へ放出される。しばらく意味もなく周囲を往復してみたが、飽きたので近くのセイコーマートに入る。セコマはいいぞ。フライドポテトとチキンがうまい。手づくりの塩サバおにぎりもいい。夏はミルクソフトとスイカバー。惣菜も安くて量がちょうどいい。店内のイートインスペースでカフェラテを飲んでいるうちに順番待ちの通知が鳴った。

トリトン、うまかった〜。とにかくネタがでかい。値段気にせず頼んで2400円。8皿でだいぶ満腹になった。また来よう。

そいつが俺のやり方


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トリトンを出て、バスで再び札幌の中心地へ。大型文具店セントラルで日記帳を選ぶ。すでに1月も半分を過ぎた頃だったので、日付の入っていない文庫本サイズの方眼ノートを購入した。

中島公園近くのホテルにチェックイン。旅の一番の目的はこのホテルに泊まることだった。かつて頻繁に出張に行っていた頃に貯まったホテルのポイントが、今年の1月で有効期限切れになってしまうとのことで、本来なら東京の系列ホテルに泊まってポイントを使おうと思っていたのだが、さまざまな事情からやむを得ず近場の札幌で消化することになった。

ポイントは23,000ptあったので思い切って朝食付きのプランにした。なぜか全てをポイント払いにすることはできず、フロントで2円だけ払った。1円玉を財布から2枚出すのが恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになった。

部屋に入ってテレビをつける。このホテルはWi-Fiのパスワードがテレビのホーム画面に示されるタイプの仕様なんだよなあ。よく泊まってたから知ってる。北九州のホテルと変わらないジャズみたいな音楽が流れていた。「ビジネスホテルで部屋に入ってWi-Fiのパスワード打ってる時が一番面白え」って、天竜川ナコンがツイートしてた。一番面白え構文大好き。というか私も口癖で「一番」ってよく使う。このまえ職場の人がこの辺で良い飲食店の話をしていたときに「あの店なかなか良いよね?」と同意を求められたので「一番良いです」と答えたら、後輩が「イチバン…?」と引っかかっていた。これはマジで前の職場でも「とても」とか「かなり」の意で「一番美味しい」「一番面白い」「一番好き」とか言ってたら、そのときの後輩に「一番って言い過ぎ」と指摘されたのだった。一番は一番だ。一番はなんぼあっても良いですからね。

いつの間にか30分くらいベッドで寝てしまい、別にお腹は空いていないのだが近くの飲み屋に行ってみることにした。一人客がそれぞれ端と端に座っているカウンターに通された。真ん中あたりに座る。甘くない黒豆をクリームチーズに入れたやつとビールを頼む。右の女性客はハツ刺しを食べていて、珍しいからちょっと気になってはいたのだが、この距離感で私がハツ刺しを頼んだら真似したみたいになって気まずいな…というか生肉ってあんまり得意じゃないかもな…とか思って炭火焼を頼んだ。

反対側の男性客は、カウンターに立つ大学生くらいの店員さんに話しかけていて、「二人は姉妹なの?」と聞いていた。一人が「よく間違えられるんですけど違うんです」と答えると、もう一人の方が「今日前髪つくってきたから余計似てるのかも」と情報を加えたが、男性はぽかんとして無反応だった。店員さんはもう一度「今日さっき美容室で前髪つくってもらったんです」と説明したが、男性はそもそも「前髪をつくる」の概念を理解していないようだった。そうだよな、「前髪あり」の方が短くて「前髪なし」の方が長いとか、私もちょっと戸惑うもんな。

一人飲みに来るといつも、どう時間を過ごしたら良いかわからず手持ち無沙汰になることが多かったのだが、今回はPERFECT DAYSの影響で本を読むことにした。実際平山が飲み屋で読書するシーンは描かれていないが、石川さゆりの小料理屋で胸ポケットに入れた文庫本のことを触れられる。この日持参した『生活フォーエバー』は土人形作家でもある寺井奈緒美さんの短歌集で、一首詠むごとに短いエッセイが添えられている。全20ページの薄い本だったので、ビール2杯とつまみ3品を食べ終える頃に読み終わるボリュームでちょうどよかった。酒を飲みながら本を読むのはほぼ初めての経験だったが、アルコールでいい感じに感情が揺れやすくなっているのもあり、一人飲みの時間の過ごし方として読書はかなりいいなと思った。今後の参考にしてください。

部屋に帰って就寝。翌朝はホテルの名物でもある豪華海鮮バイキング。前日の寿司が残っていて胃もたれしていたが、持ち前のバランス感覚で彩り豊かな海鮮丼を作り上げる。これもっと胃に余裕あるときにチャレンジしたかったな…俺の実力はこんなもんじゃない。

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見た映画とか

『窓際のトットちゃん』原作:黒柳徹子/監督:八鍬新之介

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イオンシネマで見たのもあって、子供からお年寄りまで観客が老若男女だったのが印象に残っている。幅広い層に見てもらうという意味でイオンシネマで上映することに意義のある作品だと思った。

 

『PERFECT DAYS』監督:ヴィム・ヴェンダース

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良過ぎて2回見た。「トイレがきれいすぎる」とかいう評があったそうだけど、パンフレットには、もともとTHE TOKYO TOILETというプロジェクトのPRとしてヴィム・ヴェンダースに制作を依頼したものと書いてあったので、きれいなトイレしか出てこないのは当然で、このトイレには専門の清掃員がいて、その清掃員を主人公とした短編映画をつくろうというところから企画はスタートしたということだった。

このパンフレットがまた良くて、田中泯さんによる手書きの原稿用紙や、「妹が平山に手渡した紙袋は鎌倉銘菓クルミッ子」などという情報も載っている。作中散りばめられたさまざまな要素からネットでは「平山の実家は太いのではないか」という憶測が飛び交っていたが、あながち間違ってはいないというか、平山は自ら清貧を選んで生活しているという推察にも説得力が出る。

 

『笑いのカイブツ』監督:滝本憲吾

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お笑いの映画なのに全然笑えなかった。岡山天音の美脚と菅田将暉の鼻筋をただ眺めている時間があった。キャストも制作陣も好きなのに面白いと思えなかったのは、主人公のツチヤタカユキという人物を好きになれなかったというのが大きい。「5秒に1回ボケる」ことより大切なことに、最後まで気付けず終わる。大喜利のお題に対するツチヤの回答をデカデカとスクリーンに映し出す演出がキツかった。これ本人OK出したんだ…。役者の演技は熱量が感じられて良かっただけに、余計どうして…という気持ちが強い。

 

『哀れなるものたち』監督:ヨルゴス・ランティモス

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おもしれ〜〜〜。フォーマットとしてやってることはエログロナンセンスのはずなのに一切の不快を感じないのは、制作側に明確に「恐怖や不快感を植え付けよう」という意図がなく、筋の通った確固たる主題があるからだと思う。時代設定がちぐはぐな世界観、衣装、エマ・ストーン(!)、ひたすら画面が美しい。

結婚式を挙げてハッピーエンドかと思ったら、そこからもう1章あってそこが本質だった。たしかにそのセクションがなかったらどうして彼女は死を選んだのか謎のままだったので、結婚してめでたしめでたし…じゃあないんだよなと思った。本当の最後はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか判断しかねる奇妙な終わり方で好きだった。

屋上で花火を眺めるシーンでの歪んだ音楽と花火の音と感情のこもっていない拍手の音が、なぜかどうぶつの森を思い出させた。

 

読んだ本とか漫画とか

『とくにある日々(4)』なか憲人

「この2人はこの2人の世界にいるのでこういう見た目ですが 実際には他人にはこれくらいで見えてます」って突然のネタバラシをおまけ漫画でするの斬新すぎる。

 

『さみしい夜にはペンを持て』古賀史健

日記の書き方のハウツー本ではなく、海の生物たちの物語を通して日記に記録することの意味やポイントが示してある。中高生の頃に読みたかったな〜となるようなわかりやすくて優しい内容。この本を読んで紙の日記をつけようと思った。

 

コンビニ人間村田沙耶香

今更ながら読んだけど切れ味あって面白かった。ラストの解釈分かれるだろうけど、個人的には明るい未来が待っていると捉えたい。

 

『生活フォーエバー(ファースト・ウォー)』寺井奈緒

生活フォーエバー、良過ぎるタイトル。

短歌とエッセイすべてあるある〜なんだけど、そこに目を向けて言葉にしようとした人が一番偉い!

特に好きな短歌

ヨーグルトカップがスプーンの重みでひっくり返るように布団へ

 

 

聞いてた音楽とか

 

『Love 119』RIIZE

MVが話題になっててそこから入ったけど、それより何より曲が良すぎんか。

 

『LOVE ALL STAR』JO1+INI+DXTEEN


おそらく私服+ナチュラルメイクのラポネオールスター、どんな服を着ててもわかる人はわかるしわからない人は全くわからない。2:59の平本健ちゃんのヒュイゴーヒュイゴーは必聴です。

 

 

『PERFECT DAYS』のプレイリストがSpotifyにはあったけどApple Musicにはなかったので作りました。

『青い魚』金延幸子

1972年に出された曲が今でも全く色褪せず洒落てるのすごい。カクバリズムのmei eharaさんはこの辺の音楽の影響も受けているのだろうか…などと思った。

 

 

1月は書きたいことが多すぎてだいぶ割愛した。今読んでいる本の中で「『言葉にできない』ことは「考えていない」のと同じである」という某コピーライターの主張に対して、著者が「同じじゃないだろ」と即答していて心強かった。寝る。