ねているときいがいねむい

ねているとき いがい ねむい

人には人の乳酸菌

職場の可愛いおばあさん

職場に可愛いおばあさんがいる。「おばあさん」と言うほどおばあさんでもないのだが、「おばさん」というイメージでもないので、やむを得ずおばあさんと表現している。がんこちゃんに出てくるガメさんに似ている。

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まだ転勤してきて間もない頃、職場の可愛いおばあさん(以下ガメさん)が近づいてきて「あのね実は私、〇〇(私)さんの先輩らしいのよ」とこっそり告げられた。すぐにはどういう意味かわからなかったが、私たちは出身高校が同じでガメさんは私の約30個上の先輩らしいのだった。制服のスカートが長いとかヘアピンの色は黒か紺しか認められなかったとか、一通りの高校あるあるで盛り上がった。

職場の昼休み、コーヒーをいれて自分の席に戻る途中で、向こうからにこにこしながらやってくるガメさんに部屋のすみへ追い詰められて「今度私がお嫁に行った島に遊びに来ない?」と誘われた。ガメさんは島に花を植える活動を続けていて、誰でも参加できるのでもし良かったら参加してみない?というお誘いだった。土曜の9時半にフェリーが出てるから、来れるときは9時頃船着き場に集合してねという話だった。

当日9時20分頃船着き場に行くとガメさんと他の参加者たちは既に全員集合していた。挨拶もそこそこにフェリーに乗る。この日の参加者はガメさんとガメさんの旦那さん、おじさん1人とおばさん5人と自分の合わせて9人で、ガメさん以外は全員初対面の人たちだった。「おじさん」「おばさん」と呼ぶのも忍びないのだが、他に何と言えば良いのかわからないのでやむを得ずそう表現している。

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フェリーの船内でガメさんは写真を取り出して島のことや花を植える活動のことを教えてくれた。結婚して島に嫁いできたが、しばらくして旦那さんの仕事の関係で本土にマンションを借りて暮らすようになったこと。それでも週末はほとんど毎週島に戻り、島の家で生活していたことなど。

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島に着いた。改めて他の参加者に自己紹介をする。「大学生?」と聞かれ、いえガメさんと一緒の職場で働いていて…と説明するくだり、これはあまり喜ぶべきことではなくて、2〜3歳若く見られるならまだしも学生と間違えられるのは本当に、どうにかしないといけない問題なのです。

 

ここにあったガメさんの家は津波で全部流されてしまった。
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すぐそこが海水浴場でね、水着のまま家を出て、帰ってきたらそのままお風呂に入れたのよ。海に近くて良いところだわ〜って思ってたけど、海に近いっていうのは考えてみたらそういうことなのよね、だから流されちゃったのよ〜と笑っていた。びっくりするほど朗らかだ。

 

少し歩いて花壇に着いた。
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参加者のおじさんがつくった風見鶏。

 

軍手をはめてキバナコスモスの種を採取した。参加者の方に「どれが種ですか?」と聞くと「私も初心者でわからなくて…茶色っぽいのを採ってます」と自信なさげな答えが返ってきて、そのやりとりを見ていた別のおばさんが「ほら、こういうの」と見本を指差してくれた。

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種は軍手にひっついたらなかなか取れなくて、結局素手で採取した。シーズンが終わったコスモスは引き抜いて、土を均して腐葉土を撒いた。

それからメインの花壇にチューリップの球根を植えた。「良い土ね〜」「ふかふかのベッドみたい」

ギシギシという雑草の駆除。ゴボウのように根が太い。スコップで黙々と掘り起こした。たまにスイセンやクロッカスの球根まで出てきて焦る。球根2〜3個分の深さに掘って土をかぶせてやる。球根は分球させて植え替えするとどんどん増えていくそうだ。

 

お昼になったので一旦休憩。午前中で終わるつもりで飲み物しか持ってきていなかったが、皆さんが持ち寄った焼きそばやお菓子をいただいて助かった。
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たくさん貰っておいてこんなことを言うのは失礼かもしれないけれど、どこか懐かしいお菓子のラインナップにおばさんチョイスの正解だ〜と思ってわくわくした。漬物を持ってきた人に「きれいに漬けたこと〜」「マメだわ〜」などと称賛の声があがり、「カンタン酢に漬けただけよ」と謙遜するやりとりもおばさん同士の会話だ〜と思って嬉しくなった。器用な人が手作りエコバッグを人数分持ってきてくれてじゃんけんで勝った人から好きな柄を選んでいった。花柄のものから売り切れていき、自分は一番負けだったので自動的にドット柄のものを貰った。みんなが「若い人らしい柄で良いわね」と言ってくれたので、ありがとうございま〜すと素直に喜んだ。

 

小粒でもぴりりと辛い山椒の実

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山椒ってあの山椒ですか?と聞いたら、山椒ってあの山椒よ〜と笑われた。

 

午後からはお遊びでリース作り
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花壇から船着き場まで歩きながら、その辺のツルや葉っぱや実を採って素材を集めた。ずんずん進むおばさんもいれば、素材選びにこだわってなかなか動かないおばさんもいる。野生の綿花を見つけておばさんに見せたら「かわいいの見つけたね〜」と褒めてくれた。「何でもないものが全部宝物に見えてくるわね」と笑う屈託のなさにときめいた。今までずっとおじさんはいくつになっても少年で良いな〜という理由でおじさんになりたかったけど、おばさんも案外いくつになっても少女なのかもしれない。

 

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白ぬこ

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トラぬこ


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ガメさんが島にお嫁に来たばかりの頃は、嫌なことがあるとよくこの浜辺を一人で散歩したと言う。

 

各々思い思いのリースができた。

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再びフェリーに乗って島を後にする。

ガメさんを中心に始まった花を植える活動はNPO化せず完全ボランティアで成り立っていて、今年で10年目を迎える。資金を得るために出店した園芸のイベントで、たまたま向かいのブースで展示をしていたエクステリア会社の社長さんと仲良くなってね、お友達で椅子をつくるのが趣味の人がいてね、というような形で徐々に活動の輪が広がっていったという。全国いろんな人から支援してもらった恩返しに、今後は島で増やした種や球根を被災地や学校に送っていこうと考えているそうだ。

職場の可愛いおばあさんは、朗らかで可愛くて逞しい人だった。

 

フェリーが港に近づく。前のおばさんが私を振り返り「見て見て」とジェスチャーで指し示す方を見ると、大量の生牡蠣が入ったケースが次々と積み下ろされていくところだった。牡蠣と共に下船した。